第一章 ユーザーエクスペリエンスデザインの本当の意味
vol.1変化する市場でオープンイノベーションを実現するためには?
いま、UXDセンターが考えていること。


未曾有の少子高齢化、新型コロナウイルス感染によって一気に進んだオンラインインフラ、ますます加速する社会的ニーズの多様化……。

一方で、かつてない変革の時代にあって、その潮流に対応しきれずに沈没しかける企業組織が少なくありません。長年培ってきた貴重なノウハウやモノづくりの高いポテンシャルが、このままでは時代に取り残され、埋もれていってしまう。そうした危機感を私は長年抱いてきました。

しかし、組織というのは常に内外から変革できる可能性に満ちています。新型ウイルスという外的要因に迫られて社会のオンライン化が一気に進んだように、さまざまな働きかけによって会社組織は大きな化学反応を起こし、ダイナミックに生まれ変わることが可能なのです。

変化する市場でオープンイノベーションを実現するためには? いま、UXDセンターが考えていること。

UXDセンターとは、そうした可能性を見出し、さまざまな業界においてインパクトの大きなイノベーションを創出していくことを目指した異業種のプロフェッショナルたちが集う磁場そのものです。

この連載では、UXDセンター長として私が取り組んできた「イノベーション創出」のプロセスを共有しながら、各業界が目指していくべき長期的なビジョンをともに描いていければと願っています。


イノベーションを実現させるための理想の組織とは?

新型コロナによって社会は大きな変革を余儀なくされました。しかし、コロナ禍が社会を席巻するよりはるか前から、私たちの社会がすでに大きなパラダイムシフトに突入していたのは、皆さんもご存知の通りです。

人口構造の極端な偏りや、社会インフラの劇的な推進など、私たちを取り巻く環境の変化は常に「未曾有」という枕詞とともに語られています。そうした時代の変わり目にあって、長期的なビジョンをいかに組み立てて組織の舵取りをしていくかが、どの業界のどの企業組織においても切実に問われています。

しかし、日本の比較的規模の大きな企業組織において、従来型の方法論から大きく脱皮することができずにジレンマに陥っている姿が、散見されるようになっていました。本来持っている高いポテンシャルを活用できず、時代の潮流に乗り切れないまま身動きが取れなくなっている企業が少なくないのです。

そのジレンマから抜け出し、ダイナミックなイノベーションを実現させるための理想のチームづくりのありようを、私は変革を目指すさまざまな企業組織とともに走りながら編み出してきました。その答えの1つが、 “進化したモノづくり環境”という目的を共有した、分野の枠を超えたプロフェッショナルな専門家集団でした。

なぜ「分野の枠を超えた」メンバーなのか。その専門家集団によって生み出される「進化したモノづくり環境」とはいかなるものなのか。それを説明する前に、今、私たちの社会が直面している課題について少し触れておきたいと思います。


なぜ、日本企業はダイナミックなイノベーションを起こせないのか?

なぜ日本の大手企業は自ら大胆な改革とダイナミックなイノベーションを起こしづらいのか。その理由は多々あると思われますが、根深い問題のひとつとして、これらの大手企業に関わるステークホルダーのほとんどが短期的な利益を求めがちで、長期的なビジョンを描ける文化に慣れていないことが挙げられるでしょう。

狭い視野で目先の財務計画などを立ててしまうことで自らに足かせを嵌めてしまい、従来のパラダイムに捉われた魅力に欠けたプロダクトを作ってしまいがちなのです。

さらに言うならば、現場ではオペレーションの効率化によって組織の縦割りや分断が生まれて硬直化しています。短期的利益を追求すべく効率化され最適化された生産ラインには、もはやイノベーションが起こる余地がなくなってしまい、従来のこうした環境で生まれたプロダクトはコモディティ化され短命で、すぐに陳腐化してしまうという悪循環に陥ります。せっかく、さまざまに魅力的なプロダクトを生み出すことのできるポテンシャルが組織内部にあるにも関わらず、です。

このように硬直化した組織にイノベーションの風を吹き込み、組織の良さを活かしながらダイナミックな変革を起こし、パワフルで持続可能なビジネスにつなげていくことが、私たちUXDセンターの命題です。


従来型の組織を捨てた進化したモノづくり環境を整える時代

しかし、長年にわたって硬直化してきた企業のジレンマの根は深く、かなりの荒治療が必要になるでしょう。まずは、自分たちの過去の実績を捨てることから始めなくてはなりません。つまり、病んでいる部分を切除・ダウンサイジングして小さく、動きやすく、見渡しやすい組織づくりから取り掛かるべきです(ダンバーの法則を鵜呑みにするわけではありませんが、100〜150人程度の組織が、分断させないための上限であることには共感します)。

今後は、組織も働く側もどんどん多様化していきます。組織側は社内外、業界内外といった枠が取り払われ、働く側も時間や空間の概念が大きく変わり、かつ、パラレルワークが当たり前になるでしょう。この流れはコロナ禍によって加速しましたが、コロナ後もこの勢いがとどまることはないでしょう。

真に市場価値のあるプロダクトを作るには、これまでの組織のあり方という既成概念を超えた“進化したモノづくり環境”がまず必要です。


UXDセンターとともに、イノベーションを実現しませんか?

UXDセンターは、まさにこの“進化したモノづくり環境”の体現を目指しています。

発足当初から私たちが共有していたのは「あるべき理想像」と「理想を具現化するためのアイディア」そして「アイディアを実現するためのモチベーション」のみです。この理念の基に、ユニークでスペシャルなスキルをもったさまざまな分野のクリエイター、エンジニア、アナリスト、マーケター、研究者らが続々と集まってきました。

発足から数年が経過しましたが、今では畑の違う専門家たちがそれぞれのスキルを惜しみなく出し合い、化学反応を起こし、個々の発想の枠を超えたユニークなアイディアが続々と生まれています。そして今まさに、いくつものアイディアを具現化し、インキュベートさせる段階に至っています。

変化する市場でオープンイノベーションを実現するためには? いま、UXDセンターが考えていること。

私たちは、手始めに“住まいと暮らし”の領域において、いくつものメディアやプロダクトを世に送り出しましたが、これらはその業界に新たな風を送り込み、変革の端緒となっていくはずです。時流をとらえたよいアイディアは、種を蒔けば自然と育っていき、組織内で進化していくものだからです。

私たちはこの動きをさらに加速させていきます。私たちが目指しているのは、自分たちの成長ではなく、市場全体の活性化・成長です。そのためには、私たちと意をともにできる協業パートナーの存在が不可欠です。

私たちUXDセンターが目指すステージを、多くの人と共有し、“コラボレーティブ・イノベーション”を推進し、市場全体のボトムアップを進めていきたいと考えています。我々に参加する基準は、イノベーターとしての強い意志だけ。

この連載を通し、その“意志”のカタチを、あらゆる角度からお伝えしていきます。共鳴してくださる方が一人でも増えることを願いつつ。

UXDセンター長 木村 健


Profile

木村 健UXDセンター センター長
木村 健

アナログ・デジタル問わず、あらゆる媒体で商業広告デザインやプロダクトデザイン、ブランド戦略を展開してきたクリエイターでありマーケター。1990年台半ばからさまざまな企業やクリエイターたちと協業し、コラボレーティブ・イノベーションに果敢に挑戦してきた。UI/UX/インタラクションデザイン領域を最も得意とし、Webメディアやアプリケーションデザイン分野で業界を跨いだインキュベーション活動を行っている。また、2007年頃からWeb/IT領域での教育の現場で講師兼メンターとして未来のクリエイター育成に貢献。
オープンイノベーション・コンソーシアムであるUXDセンターでは、初代センター長として立ち上げから参画。異業種プロフェッショナル集団の求心力である。

UXD Center

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